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日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 31話 毒キノコはこんなに辛い!

私とマルコムの共通の趣味としてキノコ狩りがあった。
概してコンサバなイギリス人の中にあって、グルメを自称するマルコムならではの趣味と言えるだろう。
私たちはキノコの先生について教わりながら知識を増やしていった。

第1話はこちら
前回のお話はこちら

日本とイギリスのキノコの違い

当然のことながら、日本とイギリスでは採れるキノコが若干異なる。
例えば、日本ではヒラタケに似た猛毒キノコ「ツキヨタケ」があって紛らわしいが、イギリスにはツキヨタケがなかった。
また日本では、傘の裏が管孔状になった「イグチ」の仲間はほとんどが食べられるが、イギリスには毒のものが多いといった違いがある。
とはいえ、例えば白雪姫に出てくる有名な「赤に白斑点のベニテングタケ」はどちらの国にもあったし、猛毒きのこの代表格・真っ白な「ドクツルタケ」はイギリスでは「デスキャップ」と呼ばれて恐れられていた。
地球の裏側で、採れるキノコに共通点が多い方が驚きとも言える。

素人のキノコ狩り

先生と一緒にキノコ狩りに行くときはマルコムは収穫したキノコを積極的に食べたが、自分たちで出かけたキノコ狩りの収穫は、よほどの確信がないと口に入れなかった。
マルコムはとても用心深かったのである。

日本人の私は「イグチに毒なし」の信仰がどこかにあったのか、イグチの仲間には甘いところがあった。

ある日、教会の庭でイグチの群生を見つけ、つい手を出してしまった。
「大丈夫なのかな?」
とマルコムが疑り深そうに赤黒いキノコを覗き込む。
私は、「イグチの仲間はまず食べられるのよ。私が食べてみるから」と言い張って、キノコ料理を作ることにした。

危険なキノコ料理

マッシュポテトにキノコやサーモンを炒めた具を乗せて作るフィッシュパイ。
キノコは土を落としてスライスし、オリーブオイルで炒める。
たっぷりのジャガイモを茹でて、大きな皿に1つ、小ぶりの皿に2つのフィッシュパイができた。
私は翌日義理の息子たちが遊びにくるタイミングで大きなフィッシュパイを焼こうと、冷蔵庫にしまい、小さな方をオーブンに入れた。

表面がこんがりきつね色に焼けたタイミングでパイを食卓に出した。
マルコムは相変わらず疑わしそうな顔で「パイは食べたくない」と言った。

危険を察知するマルコム

鶏肉をかじるマルコムのそばで、私はたっぷりと自分の皿にパイを盛り付け、フォークですくって口に入れた。
微妙だった。
キノコは苦くも辛くもなかったが、かと言って美味しいわけではなかった。
むしろ水っぽくてまずい。
私はマルコムに啖呵を切った手前、それでも盛り付けたパイの半分ほどを食べたが、美味いからとマルコムに勧める気にはなれなかった。
食後に流しでパイの残りを捨てながら、不安になって胃の辺りをさすった。
「もしかしたら…」
そんな疑念が頭を離れなかった。

そしてそれは始まった

それは夕飯の後ぴったり2時間で始まった。
まず、激しい吐き気。
私はトイレに飛び込んで便器に頭を突っ込んだ。
吐いても吐いても込み上げてくる胃液。
そのうちに猛烈な下痢が加わった。
とにかく体が、体内の毒物を全て排出してしまおうと全力を挙げて働いているかのようだった。

マルコムが吐き続ける私の後を、台所で使うボウルを持って追いかけてきた。
ボウルは汚いからやめて、と私が言ったが、そういう感覚はイギリス人には通じない。
マルコムはすぐに冷蔵庫から残りのフィッシュパイを持ち出して、全て捨てた。
「危なく息子に食べさせるところだった」とつぶやきながら。

その後も私の胃袋は、たった一つの細胞も見逃すまいとするように、嘔吐を続けた。
下痢も止まらない。
私は怖くなって、マルコムに「救急車を呼んで」と頼んだ。

NHSでの処置方法

救急車がやってきて、簡単に問診された。
マルコムも事情を話した。
救急隊員は、私が食べたキノコが格別危険なものではない、と判断したようだ。
キノコの中には、脳や肝臓などの臓器をダメにしてしまうものがあり、悪質な毒キノコを摂取すると命の危険がある。
私は救急車の中で椅子に座らせられ、「眠ってはダメだ」と言われながら、近所の救急病院に搬送された。

病院についても担架やベッドはなし。
とにかく歩き続けなさい、と言われた。
昏睡を避けるためだろう、とマルコムが言った。
吐きたいというと、紙コップを渡された。
日本の病院よりもずっと厳しかった。
私は夜半にやっとベッドをあてがわれ、そこでまどろんだ。

地獄の終わり

夜が明けると、気分はずっと良くなっていた。
看護師さんがやってきて、「コーンフレークと紅茶はどうか」と聞かれた。
もらったが、ほとんど口に入らなかった。

私の様子を医師が見にきて、退院の許可が下りた。
NHSは無料なので、退院の手続きなどはなし、そのまま帰宅すればいい。
迎えにきてくれたマルコムは、無防備な私を責めるわけではなかったが、その後も、怪しいキノコを口にすることは絶対になかった。
私は毒キノコショックで、その後しばらくキノコ狩りには出かけなかった。

つづく

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Emma Rosemary Watson

2005年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、
Transnational Communication and Global Media修士課程終了。
以降、ロンドンにて日英コンテンツの発信を行う。
ロンドン在住中にイギリス人の夫と結婚、
イギリス流のライフスタイルのなかで暮らす。
現在、イギリス人の好むイギリスのカントリーサイドを歩くネイチャーウォークの楽しさを日本人にも知ってもらおうと活動中。

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