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EU離脱後、イギリスの食はどう変わる!?

EU離脱に向けて、イギリスの新しい首相にテリーザ・メイ氏が選ばれました。
これから本格的な離脱交渉が始まるわけですが、その手続きには長い歳月がかかるようです。
また、EU離脱における影響は、様々なところで出てくることが予想されます。

そこで今回は、「EU離脱後、イギリスの“食”はどう変わるのか」にスポットを当てて見ていこうと思います。

EUが設立された目的は多々ありますが、その一つに、EU圏内の人々に充分な食料を確保することが挙げられます。
1944年~1945年の冬、オランダではナチスドイツ占領下で、ドイツからの物資の輸送が遮断されたことにより饑饉が起こりました。
また地球温暖化による気候変動により、イギリス、ドイツそしてフランスなどのEUの地域では洪水や干ばつなどの自然災害が頻発しており、農産物の生産にダメージを受けることもあります。
そのような非常事態の際に起こる饑饉を事前に防ぐために、食料の確保、つまり食糧安全保障がEUの使命の一つでもあったのです。

イギリスは、そんな食糧安全保障の恩恵を1973年のEU加盟以来、受けています。
2014年のデータによると、イギリスで消費されている食料のうち、54パーセントはイギリス産ですが、27パーセントはEU産のものです。
そのEU産の内訳は、フレッシュフルーツ・野菜・肉類等の生鮮食品が大半を占めています。
イギリスにおけるフルーツの自給率は12%、野菜が58パーセントと軒並み低くなっているため、EUからのビタミンC類の輸入はイギリスにとって、とても重要であることは言うまでもありません。

※統計データはこちら

それらの食糧安全保障の恩恵を受けると共に、EU加盟後のイギリスの食は劇的に変化したと言えます。
ヨーロッパの温暖な気候の南西部で生産されたオリーブ、ピーチやパプリカなどの生鮮食品、そしてオリーブオイルやワインなどがイギリスのスーパーの棚に陳列されるようになりました。
またエアラインのルートも広がり、パスポートコントロールも変わったこともあり、イギリス人にとって、EUでの休暇はとても容易になりました。
休暇先でイギリス人は南西ヨーロッパの食文化を学び、自国の食生活に取り入れるようになったのです。
また、ジェイミーオリバー、ゴルドン・ラムジー、ヘストン・ブルーメンタルなどのセレブリティシェフが登場し、食にさらに関心・興味を持ち始めました。
それにより、イギリスの食は洗練され、格別に向上したようです。


EU離脱後は食の恩恵を失い、磨き上げられたイギリスの食は変わってしまうのでしょうか。


もちろん、EU離脱後には様々な懸念が考えられます。
すでにポンドの下落により、農業従事者、小売業者、生産者などは原材料費の値上げに直面し、食品産業で影響が出ているほか、離脱後は関税もかかってくるため、食品の値上げは避けられないことでしょう。
ふだん使いしていたEU諸国の食料が手軽に入手出来なくなるかもしれません。

また、欧州の多くの移民が働いていた食品産業、外食産業では、EU離脱により労働者不足になり、例えば、イギリス人が日常使っていた多国籍料理のレストランが減少することも考えられるなど、EU離脱後、イギリスの食は、多くのマイナスの面を持つことになります。

しかしながら、EU離脱はイギリスの食にとっては独自の食を築くチャンスにもなるかもしれません。

イギリスの食の歴史をたどってみると、大英帝国の拡大により植民地から様々な食料が輸入されてきました。
例えばインドの料理カレーなど、東インド会社のメンバーによってイギリスに持ち込まれ、そしてイギリスから世界に広められたと言われています。
イギリスの地方料理やお菓子には香辛料が多く使われているのも、植民地から持ち込まれ、アレンジされてできた料理・お菓子が多いのです。
EU加盟後は、バターの代わりにオリーブオイルを、そして多用していたジャガイモがパスタにかわったりと、モダンブリティッシュ料理が生まれ、イギリスにおいての食のアイデンティティはまさに、異文化を取り入れたパッチワークの料理、つまり多文化料理になっていたのです。

しかしEU離脱後は、今までのような条件で食品の入手は難しくなると予想さるため、その場合はイギリスでの生産を余儀なくされる場合もあると思われますが、農業改革をし新たな食を産み出す絶好の機会かもしれません。
イギリスのような1年を通し比較的低温の風土でも、技術の進化により野菜や果物が生産できる可能性はいくらでもあります。
現地でとれた食材を活かした独自の料理が生まれるのでしょうか。

また、移民の労働者も規制されることも考えられるため、レストランでの食産業では、イギリス人の料理人の雇用が増え、またレストランで活躍する機会も増えるでしょう。
イギリスではEUに加盟して以来、EUの厳しい労働基準法が適用され、料理人は週に36時間しか働けませんでした。
時間をかけなければ作れない、例えばブイヨンやコンソメを既製品に頼らざるをえないレストランが多かったことも事実です。
しかしEUの基準から外れれば、若い料理人たちが手間暇をかけてそれらのブイヨンを一から作り上げたり、ベテランシェフから多くのことを学べる時間も多くなるなど、技術の向上が見込めます。

今まで培ってきたノウハウを活かし、そして技術は磨かれ、イギリス人ならではの感性を持ち合わせた食になり、またイギリスで生産された食材をふんだんに使った新たな、そしてパッチワークではない、生粋のイギリスの食文化が生み出せるかもしれません。

【Kanako公式HP】

Food culture and society

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