Rosalie

日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 11 老紳士と老猫

〜黒猫マジックの逆襲〜

私は当時、ロンドン市内のドック・ランド地区に、住居兼オフィスを持っていた。

テムズ川の水がかかりそうなくらいの川岸で、一昔前までロンドン市内へ貨物を運ぶ船が荷を降ろす船着き場や入り江がたくさん残る場所だった。
〜ウォーターとか、〜キーという名称はそういう船着き場に関係する場所だ。

倉庫群はリフォームされ、天井の高いオシャレなマンションに作り替えられ、若いセレブの人気を呼んでいた。
うちのマンションにもプールやサウナがあってよく利用したものだ。

平日は仕事場で寝泊まりし、週末になると、マルコムが住むオーピントンに遊びにいった。

第1話はこちら

老猫マジックがワトソン家に来た理由

広い庭のある古い家で、時が止まったような暮らしをマルコムは黒猫マジックと送っていた。
マルコムの説明によると、マジックははす向かいの家の飼い猫だったが、エサをやり忘れるご主人に愛想を尽かして家出、マルコムの家にやってきたという。
マルコムのふたりの息子たちは珍客を大歓迎、父親のマルコムは何度も猫を元来た家に戻そうと試みたが、猫は辛抱強く舞い戻ってきた。

とうとう保健所に電話しようかという段になって、子どもたちの懇願に負け、マルコムは猫を受け入れることにしたのだという。
黒猫だからマジック、ブラックマジック、というわけだ。

マジックのバイオアタック炸裂

マジックは女主人然として、私を無視した
彼女にとって家族はマルコムとふたりの息子たちだけなのだ。

それでも私はその老婦人のかたくなな心を溶かそうと努力した。
庭の芝生の上で、寝転がるマジックの黒い毛を、ブラシでといてやったりした。

しかし、おなかをこすられたマジックは激怒して、私の右手にがぶりと噛み付いた。
私の親指に、マジックの牙が突き刺さって大きく穴があいた。
そこからばい菌が入り、親指が3倍に腫れ上がった
傷を切ってうみを出そうとマルコムが言うので、私はあわてて逃げ出した。

家に帰ってGP(かかりつけ医)のところに飛び込むと、私の腫れ上がった指を見て女医さんが顔をしかめた。
猫に噛まれたのだと説明すると、「汚い歯で噛まれたから感染しているわ」といって、抗生剤を出してくれた。
そのとき私は抗生剤が「antibiotics」と日本語の英訳そのままであることを学んだ。

抗生剤は奇跡的な働きをし、私は親指を失わずにすんで、今日に至っている。

現役だから

「君がいるときといないときじゃ、全然生活が違うんだ」
マルコムはよくそういった。
そう、確かに私がいないときは、マルコムはマジックを膝に乗せて、だまってテレビを見ているのだろう。

かといって、私はロンドンでの生活を変える気はなかった

マルコムと過ごすのは週末だけでいい。
その頃は心底、そう思っていた。

イギリスの郊外は素敵だったけれど、まだロンドンで思い切り仕事がしたかった。

つづく


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