〜キノコといっしょ〜
マルコムも私も、自然が大好き。
イギリスの野山は自然の宝庫でした。
野生のリンゴ、さくらんぼ、ハーブなど、食べられるものがたくさん生えているのが驚きでした。
花より団子、私もマルコムもとても食いしん坊だったのです。
【第1話はこちら】
イギリスはキノコ天国
とくに関心があったのが、キノコです。
保守的なところのあるイギリス人は、危険なものには手を出しません。
「君子危うきに近寄らず」というわけです。
でも、森にはさまざまなキノコが生えていて、誰も手を出さないから、とり放題。
図鑑を見てキノコ狩りする勇気はない、と思っていたところに、面白いネット広告を発見しました。
「fungi to be with」(キノコと一いっしょ)と題されたホームページには、「プロと一緒にキノコ狩りをしませんか?」という広告がありました。
「キノコといっしょ」というのはミュージカルか何かのタイトルのパロディだということでしたが、そのホームページを主催するアンディ・オーヴァーオールという若い男性が先生のようでした。
キノコ狩り1回ひとり28ポンド。
カップル割引50ポンド。
それでもかなりいい値段です。
キノコ狩りに挑戦
ロンドン郊外で催されるその「キノコ狩り」に、私とマルコムは参加することにしました。
メールで申し込むとさっそく返事が来ました。
「集合はウィンブルドン・コモンです、参加お待ちしています」
イギリスには大きな「コモン」という広場があります。
これは昔、土地を持てなかった庶民たちのために解放された土地で、貧しい人々はここの草を自分たちの家畜に食べさせて育てていました。
いまだにコモンは、国民に開放されています(ただし家を建てたり店を作るなどといった行為は禁止です)。
キノコ博士・アンディ
キノコ狩りにでかけていくと、10名ほどの「受講者」がもう集まっていました。
リピーターが多い印象です。
アンディは30歳くらいの若い男性で、「今まで音楽をやっていたから」というのが口癖のロックンローラー崩れのキノコ博士でした。
音楽をやっていたにせよ、彼のキノコに対する情熱は本物で、ほとんどのキノコを知っていたし、新種のキノコをいくつも見つけてキューガーデンに報告している、とのことでした。
キノコの胞子を顕微鏡で見て、研究しているようでした。
キノコ狩りは誰かの土地でやることは禁止されているし、コモンでも許可がいる、とアンディは説明しました。
「自分は許可を取っているから大丈夫だ」ともいっていました。
いざ森の中へ
スタート地点からアンディと受講者はゆっくり森の中に入っていきました。
木の根っこや枝の回り、とくに倒木の裏側は絶好のキノコポイントとのことで、受講者は目を皿のようにしてキノコを探しました。
アンディの素晴らしいところは、その場で「食べられるか、食べられないか」をすぐに教えてくれるところでした。
イギリスでのキノコの名前はラテン語の学術名称が多く、英語のニックネームがついていないキノコの名前はさっぱり覚えられませんでした。
だから、私はキノコを発見するとアンディのところに吹っ飛んで見せにいき、ラテン語の名前を教えようとするアンディを遮って「食べられる?」と聞くのが常でした。
初日はタイミングがよかったのか、みんなかなりの収穫でした。
アンディは全員のキノコを選別し、名前を教え、可食かどうかを説明していきました。
キノコ狩りの最後にキクラゲも見つかり、アンディが「これ、アジアで食べるでしょう?」と私に聞いてきました。
イギリスでキクラゲが取れるのは新鮮な発見でした。
キノコの晩餐
マルコムも私もたくさんのキノコを採ってほくほくでした。
「虫が入っているキノコはスライスして干してから使うといい」「キノコは一種類ではなく何種類かを混ぜて料理すると美味い」などとアドバイスをもらったのち、皆が帰路につきました。
私とマルコムはさっそく台所でたくさんのキノコを洗い、料理しました。
夕飯はキノコづくしでした。
そしては私たちはこんなことを学びました。
「食べられるキノコと食べられないキノコ(毒キノコ)の間にはたくさんのキノコがある。堅かったり辛かったり水っぽかったりして、食べる価値のないキノコもすごく多いのだ」