日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 33話 マルコムと私と歩く会

ClintEastwood

私たちは、「ロンドン歩く会」を2006年から主催している。
今でも存続しているその会は、私とマルコムが設立した会だ。
最初は数名しか参加がなかったけれど、それでも必ず毎月一回、一度も休むことなく今日に至っている。

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歩く会の運営

最初は主催者の立場に気が進まなかったマルコムだが、生来親切な性格だから、参加者がイギリスのことを知ったり、自然や歴史の知識を喜んだりするのを見て、嬉しかったのだろう、だんだん熱心に歩く会の運営に協力してくれるようになった。
私たちは最初はマルコムの所属しているウォーキングの会が行なったウォークのコースを真似して歩いたが、そのうち歴史的建造物などを中心に自分たちでコースデザインをして歩くようになった。
例えば古城とか、ローマ時代の遺跡、ナショナルトラストなどを中心に、駅から歩けるように、フットパスという歩道をつなげてコースを作るのだ。
フットパスはイギリスの国中に張り巡らされた道なので、コースデザインは容易だった。
でも、わかりにくい道も多いので、必ず事前の「プレウォーク」が必要になる。

ふたりのコンビで作った歩く会

私たちは週末になるとプレウォークに出かけ、散々迷いながら、コースを確認した。
マルコムが間違えそうになると私が気づき、私が曲がり角をすっかり勘違いすると、マルコムが指摘してくれる、といった感じで、私たちはいいコンビだった。
ウォークの時も、二人でリーダーを務めたときは、先頭としんがりを二人でやって全体のテンポのバランスをとった。

マルコムの異変

マルコムは健脚だった。
しかし、2011年の秋のウォークで、彼はひどく遅れた。
足を捻挫したようなので、ゆっくり行く、みんな先に行ってくれ、とマルコムは言った。

前代未聞だった。
マルコムが遅れるなんて!
だからこそ、私は捻挫という言葉を疑わなかった。

私はマルコムがついてこられる程度にスピードを落とし、参加者をゴールまで先導した。
ケント州の初秋は緑に溢れ、麦の穂がみずみずしく風に揺れていた景色を今でも思い出す。
駅で合流したマルコムは、ちょっと足を引きずっていた。
心配そうなみんなに笑顔で、
「夏にオリンポス山に登った時に捻挫してしまってね、それが治らないんだよ」
と説明していた。

オリンポス山のどこで捻挫したのだろう?
私の記憶には、マルコムが転んだり足をくじいたりといった記憶がなかった。
それでもその日は二人で帰宅し、マルコムは何事もなかったようにシャワーを浴びて食事をし、眠りについた。
しかし、その日以来、マルコムはウォークに参加することがめっきり減った。
その代わり、医者の紹介で、整形外科や整体に通うようになった。

改善しない症状

イギリスはご存知のように、NHS(ナショナル・ヘルス・サービス)という医療機関があり、イギリスの住民なら医療費は無料だ。
その代わり、緊急を要する病気でない場合、専門医に予約を取って待つ時間がめっぽう長い。
GPと呼ばれる受持医を通じて予約を取るのだが、マルコムは忍耐強く連絡を取り、足の不具合を診てもらっていた。
ヨガやピラティスも試したが、足を引きずる症状は一向に改善されないのだった。

私は「捻挫」だと信じ込んでいたので、マルコムが足を引きずっていてもあまり気にしなかった。

突然の東京への異動

そんな中、私の仕事の異動の話が東京からもたらされた。
東京本社への異動!
マルコムは「不整脈があるから、海外旅行保険が使えないよ、だから東京には行かれない」と言った。
マルコムは以前、私と一緒に日本を旅行した時、不整脈の発作が出て、私の家族の受持医に自費で薬を出してもらい、助かった記憶があったのだ。
用心深いマルコムは、危険を冒してまで海外旅行をする人ではない。

決断

私が東京に移動になれば、私たちは離れ離れになる。
私が年に2回程度イギリスに来ても、日本の会社の休みの長さは知れている。
ほとんど会えない生活になる。
それでいいのだろうか?

不整脈に悩み、足を引きずっているマルコムはまるで傷ついた野生動物のようだった。
本人も「もしサバンナの動物だったら、もうライオンか何かに食われているだろうな」と言っていた。

そんな状況のもと、私が出した提案は、マルコムに日本の国民健康保険を使わせる、という選択だった。

私の夫になればそれは可能だ。

つづく

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