日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 36話 私たちの結婚式 その1

ClintEastwood

イギリスに留学して生涯イギリスに住む、というのは、実は私の子供時代からの憧れだった。
ミーハーな憧れだということはわかっている。
同年代の日本人男性に話そうものなら、呆れられるか怒られそうだ。
(彼らの多くが金髪女性を実は好きだという事実は問題にならないらしい)

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自分が好きで選択した国

日本人は日本をどこよりも愛していないといけない、そう、日本に限らず人間社会には愛国心という空気が存在する。
自分を育ててくれた国、最後を看取ってくれる国、そして家族がいる国。
それはそうなのだが、自分が好きで選んだ国、というのもあっていいのではないか。
私はイギリスの歴史も、文化も、言語も、景色も、音楽も、ユーモアも、ほぼ全てのものが好きだ。
英語は義務教育だったが、どの外国語でも好きなものを選んで勉強していい、と言われたとしても英語を選んだだろう。
英語のトーンが好きだ。
複雑すぎない文法もいい。
英語で言葉を綺麗に発音できると、心が華やぐ。

夢の復活

そんなわけで、私は世界で一番イギリスが好きだし、若い頃から状況が許せばイギリスに渡って、生涯をそこで過ごしたいと思ってきた。
しかし、私が子供の頃は、日本円が変動相場制ではなく、信じられないかもしれないが、なんと1ドルが360円で固定されていた。
ポンドともなると、1ポンド千円台だったと思う。
そんなイギリスに留学ができるわけもない。
オノヨーコのような貴族出なら可能だろうが、一介の教員の娘である私には、夢のまた夢だった。
若い頃、一度は諦めた夢だったが、縁があって40代でイギリスの大学院への留学が決まり、夢が復活した。

イギリス人と知り合うことの難しさ

実際にイギリスに渡ってみると、当たり前のことだが自分は常に外国人だった。
大好きな国だが、そこに溶け込むことは簡単ではなかった。
留学中は周囲は留学生だらけで、イギリス人と知り合う機会は極めて少なかった。
イギリス人はありていに言えば「外国人にあまり興味を示さない」のだ。
確かにロンドンなど大きな都市には、たくさんの外国人労働者がいるし、外国人はそれぞれのコミュニティを中心に下手な英語を話して生活している。
イギリス人はあえて外国人の友達を作りたがらないし、接点もない。

イングリッシュ・ジェントルマンとの幸運な出会い

私はたまたま、ウォーキングの会でマルコムと出会い、友達になった。
彼は離婚して、早期退職もしていたので、私のような「困っている外国人」の面倒を見る時間がたっぷりあったのだ。
マルコムが「信用できるしっかりしたイギリス人」であることはすぐにわかった。
中産階級の出身で、絶滅危惧種となってしまった「イングリッシュ・ジェントルマン」そのものだった。
とても親しい友人になってから、マルコムは外国人の私を様々な場面で支えてくれた。
彼の支えなしでは、私はイギリスでの生活をうまく送れなかっただろう。
その国で、どんなパートナーと付き合うかは、そこでの生活の質を大きく左右すると思う。
マルコムと出会えたことは、本当にラッキーだった。
8年という長い時間を経て、私たちは夫婦になることを決めた。
2004年の秋に出会い、それ以降に埋めた小さな愛情のタネが、長い年月をかけて発芽し、育っていったのだ。
雨の日や、少々の嵐の日もあった。
でもその木は枯れることなく育ち続けた。
2012年の春、とうとう花を咲かせることになった。
結婚前に判明したマルコムの不治の病は、私たちの結婚に昏い影を落としてはいたが、私たちはそのことを数日間忘れようと約束していた。

雨の中の結婚式?

2012年の4月は、ほとんどお日様が顔を出さない月だった。
来る日も来る日も、しとしと雨が降り止まず、30日の結婚式を控えて、私たちは空を見上げては不安になったものだ。
春のイギリスはプリムローズから始まって、水仙、マグノリア、シャクナゲと次から次に花が咲き、国中が様々な色に染まる美しい季節だ。
結婚式は花盛りの庭園で行われることが多い。
私たちが式場に選んだケント州のリム城にも美しいイギリス式の庭園があった。
城には中庭もあって、そこでシャンパンを飲みながら招待客たちが歓談するのだ。
しかし、雨が降ると中庭には出られない。
おまけに私は真っ白の打掛を着るので、雨ならずっと室内にいなければならない。

不安な結婚式前夜

私たちの祈りも虚しく、空港に日本からの友人を迎えに行った時も雨、前日に家族が、式場付属のコテージに入った時には、土砂降りに近い雨だった。
仕方がない、ここは雨が多いことで知られるイギリスなのだ。
与えられた状況の中でやれるだけのことをやるしかない。
家族全員がコテージで集まってそう決めた。

そして、夜が明けた。

つづく

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