3月11日、という日は日本人の心に深く刻み込まれたものだろう。
東日本大震災があった日だ。
その日に私とマルコムは何をしていたかというと、日本からやってきた私の息子と3人で、湖水地方に山登りに出かけていた。
湖水地方は登山基地
湖水地方、といえば日本の観光客は「ピーターラビットの里」という印象が強いだろう。
確かに、ベアトリクス・ポターがピーターラビットを創り出した家は保存され、資料館として公開されているし、今にもピーターラビットが顔を出しそうな美しい田園風景が広がっている。
しかし、イギリス人にとっては湖水地方は「登山基地」というイメージの方が強いかもしれない。
峰というには低すぎるが、丘というには高すぎる山並みが湖水地方には連なっている。
イングランドの「山脈」は、湖水地方(レイク・ディストリクト)と、もう少し北に広がる「ピーク・ディストリクト」というエリアが2大登山基地だ。
家族での湖水地方登山旅行
私の息子は転職をするので、まとまった休みが取れ、それを利用してイギリスにやってきた。
マルコムと3人で、B&Bに泊まりながら、気楽な旅行を楽しんでいた。
「湖水地方を歩く」と言ってはあったのだが、そこに「登山」のイメージを持っていなかった息子は軽装で、まだ雪が残る湖水地方の山を歩くのは危険だった。
高い頂きには登ることができなかったが、ウィンダミア周辺をウォーキングして、リラックスした休日を過ごしていた。
海外在住者の東日本大震災
そんな私達に飛び込んできた驚きのニュース。
大地震が日本を襲ったという。
だが、全く地震がないイギリスに住んでいると、大地震のニュースもなかなかピンとこない。
しかし時間を追って、地震の深刻な事態が聴こえてくる。
どうやら原子力発電所が爆発したらしい。
はっきりしない政府の発表に業を煮やしたか、フランスは特別機を日本に送り込み、在日フランス人の救出を開始した。
愛国心とは
落ち着かなくなったのは我が息子である。
幸運にも核の汚染を免れた、と胸をなでおろす母を尻目に「早く帰国して、同志と共に日本の復興に尽力しなきゃ」というのである。
「せめて、核爆発の被害の程度がわかるまでこっちにいたら?」と懇願する母をスルーして、なんと1週間後には日本にさっさと帰ってしまった。
そういう息子の気持ちを、マルコムは「なんとなくわかる」と言った。
愛国心とはなんだろう?
日本人の絆とはなんだろう?
のちにマルコムを連れて、広島や沖縄の敗戦記録を見て回る機会を得たが、軍人でもない庶民たちが甚大な被害を被った記録を見ていると、愛国心と犬死は紙一重だな、と思う。
マルコムは、そこまで頑張ってしまう日本人に、同情と尊敬と痛ましさを感じたようだった。
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