日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 28話 メイおばさんのこと

ClintEastwood

マルコムの出自のよさは、マルコムの魅力のひとつだった。
それは、親戚づきあいをするとよくわかるのだ。

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マルコムの一族

マルコムの父親の父親、つまりマルコムのおじいさんは、ロンドンの下町で郵便局をやっていたそうだ。
今でいうと、ショーディッチ周辺の、昔は移民の多い下町だったという。
3人の息子と一人の娘を育て上げたお父さん。
マルコムのお父さんスティーブンは次男で、保険業界に職を得た。
保険の調査員を長年やって、会社から表彰されてもいた。

お父さんにはフランクという弟がいて、フランクはお堅いクリスチャンだったという。
マルコムが若い叔父に親しみを込めて「フランク」と呼びかけたところ、「フランク叔父さんといいなさい」と言われた、と何度も聞いた。
よほどショックだったのだろう。

第二次大戦におけるマルコム家にとっての日本

さて、フランクは若い時に召集されて、第二次世界大戦ではインドシナで戦い、日本軍の捕虜になったのだそうだ。
3隻の軍艦が並んで捕虜を日本に運んだのだが、アメリカの空爆で前後の軍艦は撃沈、真ん中の軍艦に乗っていたフランクおじさんは助かったらしい。
だが、助かったはいいが当時の日本軍の捕虜の扱い方は酷くて、終戦までの1年ほど、日本の鉱山で強制労働に従事する間に、すっかり体を壊してしまったのだという。
その話を聞いていたマルコムは、私に会うまでは、日本人は残酷な人種だというイメージがあったという。
鬼畜米英ならぬ、鬼畜日本兵である。
戦争の話は、私たちが敵味方の側に属すだけに、結論が出ない話題の一つだった。

英国婦人

そのフランクおじさんの奥さんがメイおばさん。
私がマルコムと付き合い始めた頃、すでに90歳近い高齢で未亡人だったが、矍鑠としてとても上品で素敵な英国婦人だった。
マルコムが私をメイおばさんの家に挨拶に連れていった時も、亡き夫の辛い経験など一切口にせず、ニコニコと私を迎え入れてくれた。
実際、信仰が深かったフランクおじさんは、不自由な体で開放されて帰国したのち、日本とイギリスの交流に努めたというから、人格者だったのだろう。

そんなメイおばさんの娘、ドロシーから「母の90歳・誕生パーティーの招待状」が届いたのは、初対面から1年余りたった頃だった。
イギリスでは年齢が大台に乗る時に大きなパーティーをする習慣があると以前書いたが、メイおばさんも90歳になるので、親戚一同を招いて大きなお祝いをする、というのだ。
私たちは喜んで招待を受け、はるばるコッツウォールズの「貴族の館」に住むメイおばさんを訪ねて行った。

親戚や友人が50人近く集まったそのパーティーで、メイおばさんは自分でスピーチをする、という。
私たちは静まり返ってメイおばさんの言葉を待った。
メイおばさんは自分の人生を語り出した。
90年、という1世紀近い人生の物語。
それは当然、結婚相手のフランクおじさんの歴史にも触れるものだった。
「夫のフランクが戦争に行った」というくだりに私は耳を澄ました。

メイおばさんのやさしさ

メイおばさんはこう言った。
「フランクは、アジアで捕虜になり、しばらく強制労働に従事しました」…

夫を捉えた敵を「日本」と名指しせず、「アジア」と表現したところに、私とマルコムへの細やかな気遣いを感じ、私は感動で滲む涙をそっと指で押さえた。

メイおばさんは、その後数年間生きて、静かに天国に召されて行った。
メイおばさんを思い出す時、私は「絵に描いたようなイギリスの上品な老婦人」という形容詞をイメージせずにはいられないのだ。

つづく

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Emma Rosemary Watson

Emma Rosemary Watson

2005年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、
Transnational Communication and Global Media修士課程終了。
以降、ロンドンにて日英コンテンツの発信を行う。
ロンドン在住中にイギリス人の夫と結婚、
イギリス流のライフスタイルのなかで暮らす。
現在、イギリス人の好むイギリスのカントリーサイドを歩くネイチャーウォークの楽しさを日本人にも知ってもらおうと活動中。

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