日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 39話 新婚旅行と初めての車椅子

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今でも尊敬を感じるのだが、マルコムは「死刑宣告」を受けた後も、自分の生活や考え方を全く変えることはなかった。
「生まれる」ということと「死ぬ」ということは対になっているのだとでもいうように、淡々と日々を重ねていた。
少なくともそう見えた。
もちろん彼の中には葛藤があったに違いないし、彼の人生はその後、大きく変化するのだけれど。
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束の間の新婚旅行へ

私たちは、結婚式をすませた翌月の5月、ほんの数日間の新婚旅行を計画した。
近くて行きやすいところ。
私はネットなどで、オランダの国境の町フェンローで4年に1回開催される花の万博「フロリアード」が行われることを知り、そこに行こうとマルコムを誘った。
マルコムは花が大好きだったし、私はオランダにちゃんと行ったことがなかったのだ。
そこで、私はLCCでフェンロー至近の空港(ドイツの空港だった。国境沿いの街ではよくあることだ)への航空券を取り、ホテルはちょっと奮発して四つ星を予約した。

空港からはレンタカーで2時間の旅だった。
いつも大陸を運転するときは、右側通行に慣れるのにしばらくかかる。
マルコムは運転が好きだったから、マルコムと来るときには私は助手席専門でよかったが、ALS発症後は運転はもっぱら私の仕事になった。
イギリスではカーナビのことを「トムトム」と呼ぶ。
私たちは、シンプルだが優秀なトムトムのおかげで、迷わずフェンローのホテルに着くことができた。

巨大なベッドで行方不明に

ホテルは昔修道院だったいくつかの建物をモダンな建築でつなぎ合わせたような場所だった。
3つの建物の間に広々したパティオと、その脇に噴水のある広い花壇が印象的にレイアウトされていた。
しかも、用意されていた寝室には、まるで太平洋のように広いキングサイズのベッドが!
後にも先にも、私はあんなに広いベッドに寝たことがない。
マルコムと「寝ている間に行方不明になりそうだ」と冗談を言い合った。
食事も部屋も満足だったが、一つだけ、階段を上がる部屋は困るという事前のリクエストが届いていなかった。
その部屋に行くには階段を登る必要があったのだ。
マルコムはクレームをつけようとする私を制して、杖を使いながら、なんとか階段の上り下りをした。

愛する人の背中

翌日出かけたフロリアードは、正直なところ期待外れだった。
飾られたり植えられたりしている花は、春から夏への季節の移り変わりの時期だったからか、しおれたり枯れかけたものが多く、がっかりだった。
他のお客さんたちもがっかりした様子で、マルコムはだれかれつかまえては、ロンドンのチェルシーやハンプトンコートのフラワーショーはこれよりもずっと素晴らしいから是非、夏にイギリスに来るといいと、花好きそうな観客に勧めて回っていた。
とはいえ、広大な敷地にいくつものパビリオンがあり、植物の即売会や中世の騎士のバトルを再現したようなアトラクションも催されるなど、博覧会の規模は大きかった。
その広大な会場で、マルコムは初めて車椅子を借りて乗った。
クッションもない、乗り心地の悪いものだった。
だが、その時は自力歩行も交えて使っていたので、マルコムからの苦情はなかった。
けれども、車椅子に座った夫を押すのは、正直ショックだった。
そんな新妻を思いやってか、マルコムは色々なパビリオンを見たがったし、フロリアードを出てからも、あちこちドライブをしたがった。
ホテルでの食事はフュージョンだったが美味しかった。
でも、「外でも食べてみようよ」とマルコムは地場のレストランに出かけようと私を誘った。
フェンローはクレープのようなものが名物だった。
中世の佇まいを残す小さなヨーロッパの街・フェンロー。
フロリアードの思い出は、石畳の道を車椅子に乗って進むマルコムの背中と一緒になって、今でも私の瞼に焼き付いているのだ。

つづく

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Emma Rosemary Watson

Emma Rosemary Watson

2005年ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ、
Transnational Communication and Global Media修士課程終了。
以降、ロンドンにて日英コンテンツの発信を行う。
ロンドン在住中にイギリス人の夫と結婚、
イギリス流のライフスタイルのなかで暮らす。
現在、イギリス人の好むイギリスのカントリーサイドを歩くネイチャーウォークの楽しさを日本人にも知ってもらおうと活動中。

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