〜ビッグ・バースデー・パーティ〜
イギリスでは、年齢が大台に上がるときに盛大なパーティーを開く習慣がある。
30歳、40歳、50歳などになるときだ。
マルコムから、特別な誕生日を祝うので、来て欲しいと招待があった。
知り合って5ヵ月目に、マルコムの誕生日があった。
60歳になるのだ。
大台に乗るのだから、盛大に祝う節目の誕生日だ。
【第1話はこちら】
子供たちからの招待
場所は、ロンドン・ウォータルー駅そばに最近できた、XOタワーという豪華なタワービルの最上階にある展望レストラン。
招待主はマルコムのふたりの息子たちだった。
30歳の長男フィリップは精悍な感じの銀行員、3歳若い次男のファブリスは2メートルを超すのっぽで、保険会社に勤めているということだった。
彼らとウォータルー駅で待ち合わせて、最初はおしゃれなパブにでかけた。
木目を活かした内装の、カフェバーのようなパブ。
フィリップはそこで、高級シャンパンを惜しげもなくあけて私たちに振る舞った。
ちょっとはにかむマルコムは冷静で、59歳だった昨日とまったく変わらなかったが、誰よりも息子たちに祝ってもらえることが嬉しそうだった。
映画の舞台のようなレストランへ
さて、いよいよXOタワーに向かう。
テムズ川の川岸に、ひときわ目立つそのタワーには、ネオンサインの赤文字でXOXOと記されていて、遠くからでもそれとわかる。
その最上階にある、映画でしかお目にかかったことのないような豪華なレストランに私たちは到着した。
ウェイターたちがうやうやしく私たちを迎える。
「XOタワーにようこそ!」
そう微笑むウェイターたちも、その豪華なレストランに客を招くことが嬉しくてたまらない、という感じだった。
もちろん、彼らのほとんどが東ヨーロッパから来た外国人だったが、流暢な英語を話した。
思わず見栄を張ってしまう
私たちは席に着き、アペリティフ(食前酒)、スターター(前菜)、メインディッシュ、デザートと注文していく。
どれがいい?と聞かれて、私は日本人根性でスターターを「遠慮」してしまった。
食べたかったのに!
メインには魚料理を頼んだ。
私を除く3人がスターターに舌鼓を打っている間、私は高層ビルの最上階からのロンドンの夜景を楽しんだ。
遺跡や旧市街が多く残っているロンドンでは、新しい建造物に大きな規制がかかっている。
とくに街の景観を左右する高層ビルの建築許可を得るのは至難の業だと聞いたことがあった。
お上品な一皿
メインディッシュがゆっくりやってきた。
なんと、それは皿をキャンパスに見立てたような芸術的な一品だったが、メインの魚(鯛だったような気がする)は、寿司ネタもかくや、と思うサイズで上品に皿の真ん中でリーフレタス一片とチコリ1枚に囲まれて置かれ、数本のグリーンのソースがその上を横切っていた。
「エンジョイ!」(楽しんで)
サーブしたウェイターが極上の笑顔で私にいった。
見た目は素敵だが、とてもおなかは満たされない。
スターターにスープでも頼んでおけばよかった、と後悔しながら、私はいくつもパンをお代わりしながら魚料理を食べた。
甘いものを食べない私は、デザートをぱくつく3人のそばで、またロンドンの夜を眺めていた。
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