マルコムとイギリス食文化
食文化というものは、知らず知らずのうちに身についているものだ。
イギリスの食事が不味い、とはよく言われることだが、こと家庭料理に関しては、美味しいものがいくらでもある。
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料理男子マルコム
マルコムは、料理にはいささか自信を持っていた。
ウナギだって三枚におろせるし、お手製のジャムやデザートも手早く作る。
「美味いものを作れば、友だちが訪ねてくれる」が彼の持論だった。
私が「何を食べるか、ではなくて、誰と食べるか、ではないの?」と言っても、決して首を縦には振らなかった。
味噌汁にミント!?
私はよく、日本の味噌汁を作った。
具は、イギリスにあるものを使った。
たとえば、ジャガイモやカボチャ、それから道端に生えている三つ葉。
イギリスでは三つ葉は雑草なのだ。
マルコムの庭にはハーブがたくさん育っていて、マルコムがチャイニーズチャイブと呼ぶ、ニラの葉も具になった。
ある日、味噌汁の具に迷った私は独り言のように「味噌汁に何を入れたらいいかしら」と呟いた。
それを聞いていたマルコムが、目を輝かせてこう言った。
「ミントの葉は?」
私は思わず吹き出した。
味噌汁にミント!
お茶じゃないんだからさ。
日本人なら、笑っちゃう発想である。
笑い転げる私にいたくプライドを傷つけられたマルコムは、
「頭が硬いんだよ。別の発想をしてみれば、意外と新しい味を発見するかも知れないのに」と、おおいにおかんむりだったのである。
そうかも知れないが、私はいまだに味噌汁にミントを入れる勇気はない。
意外とサバイバル向きなイギリス
ちなみに、イギリスの野山には、三つ葉の他にもたべられる植物が思いのほか、たくさん生えていて、食卓に彩りを添えてくれる。
行者ニンニク、料理用リンゴ、ワラビ、ブラックベリー、サクランボ、プラムなどなど。
場所によっては道端に自生するルッコラを見かけることも。
季節ごとにマルコムと収穫に出かけたのはいい思い出だ。
体ひとつで生き残れるのは南のジャングルではなく、自生する植物の多いイギリスではないかと思ったしだい。
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