※この物語は、ある日本のおばさんが主人公で、その視点から回想されていく実話国際結婚物語です。
【英国紳士と結婚したある日本のおばさんが、この物語を綴り出した全ての始まりは→こちら】
【二人で日本での新生活を始め出した前回のお話は→こちら!】
この物語の登場人物
・とある日本のおばさん「Emma Rosemary Watson」
・クリント・イーストウッド似の英国紳士「マルコム」
さて、新居はバリアフリーで過ごしやすく、明るくて素敵だったが、当然のことながら、がらんどうだった。
ダイニング・テーブルから洗濯機、掃除機やベッドに至るまで、私はネットで注文しまくった。
料理が大好きなマルコムのために、ミキサーもしっかり購入した。
台所で支えがあれば、立って料理を楽しむことができるかもしれない、と私は思ったのだ。
大失敗でスタートした新生活にマルコムは…?
しかし、私の脇の甘さで、配達日を確認しないまま購入ボタンを押していたため、
ひと月近くも配達されない家具などもあり、1月はまるでキャンプ生活だった。
特にダイニングセットは配達が遅かったので、私たちは大きな段ボールを逆さまにしてその上で食事をした。
私は小さな赤い車を買った。
それにマルコムを乗せて緑の多い場所に連れて行こうと思ったからだ。
そんなプランはマルコムの筋肉が思いがけない速さで衰えてしまったため、ほとんど実現しなかったが。
とはいえ、自分が「アウェイ」だと思っているのか、「ホーム」の私がどんなものをオーダーしても、マルコムは「おまかせ」とばかり全てを私のしたいようにさせてくれた。
英語の出来ない外資系銀行!?苦戦の続くトーキョーライフ!
銀行口座開設はかなり手こずった問題だった。
マルコムは自分の口座から生活費を日本に送金するために、外資系の銀行に口座を開いたのだが、銀行の名前とは裏腹に、銀行員たちはろくに英語を話さなかった。
あまりの拙さに、家族である私が時々通訳に入ったのだが、あのレベルで外国人相手の銀行業務ができるのだろうかと、他人事ながらちょっと心配になった。
それでもかなり長い時間をかけて口座を開き、お金の問題は解決した。
しかし最後に、彼の手が麻痺してサインができなくなっても「サインがないと出金できません」と言い張られて、腹立たしい思いをしたのだが。
英国紳士を唸らせた日本の福祉サービス!
行政への届け出も最初にやらなければならない関門だった。
区役所に行って、介護保険を申請した。
区に「ケア・マネージャーを決めてください」とリストを渡されたが、どう選べばいいのかわからない。
難病だと事情を説明すると、区の方から『特別に』ケアマネさんの推薦が来た。
元、大学病院で神経内科のナースをしていた啓子さんというベテランケアマネさんで、
私たちは啓子さんと、それから看護師の由美さんに、最後まで助けられることになる。
かかりつけ病院はそれまでにも診察していただいていたTI大学付属病院の M教授にお願いした。
身体障害者2級の診断書をくれたが、ケアマネの啓子さんは「もう少し症状が進んだら、すぐに障害者1級の診断書を書いてもらってくださいね。受けられる援助がぐっと違うから」とアドバイスをくれた。
その数ヶ月後にマルコムは「身体障害者1級」「難病指定」「介護度5」になり、これ以上ないほどの福祉サービスを受けられるようになっていく。
日本という福祉国家は偉大だ。
住民に(外国人を含めて)素晴らしい福祉サービスを提供するシステムが出来上がっている。
特に介護保険は世界に類を見ないほどきめ細やかで行き届いたサービスだと思う。
啓子さんが腕利きだったこともあり、車椅子でもシャワーチェアでも、そして介護ベッドでも、電動式車椅子(外出用)でも、必要なものがすぐに運ばれて来た。
イギリスだと、何日かかるかわかったものではないのだが、日本では大抵のものがその日に来た。
その素晴らしいサービスはマルコムをも驚嘆させた。
そんな訳で、思い通りにいかない事がありつつも、大筋においては悪くない滑り出しだった。
心配した大都会での生活だったが、マルコムは親切な日本人に囲まれて
「トーキョーライフも悪くないね」とまんざらでもない顔だった。
つづく
「トーキョーライフも悪くないね」と、彼はそう言った。
本当にそうだったのだろうか。
その答えは、メールに残されていた。
保守的なイギリス人老年紳士「マルコム」が、日本人妻と再婚し、日本へ。
ただし、彼はALSという不治の病で、
余命わずかと診断されていた。
そのような状況でも、
彼は淡々と日本の文化を味わい、
イギリスと比較しながら、
アイロニックに日記に記していく。
日本にまったく興味のなかった
コンサバ英国紳士が、
日本文化を楽しむようになった訳とは?
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