日本のおばさんが、クリント・イーストウッド似のイギリス人と結婚できた理由 30話 モロッコ旅行のこと

ClintEastwood

マルコムと私は、歩くのが大好きだった。
イギリス国内もよく歩いたが、ある時、モロッコへ歩く旅行に出かけようということになった。
オンラインでそこそこ、手軽な値段のツアーを見つけたのだ。
3月のモロッコで、アーモンドの花を見たい、というのがマルコムの夢だった。

第1話はこちら
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モロッコでのメンバー

カサブランカで集合したのは、私たち(イギリス人男性、日本人女性)、学生時代からの友達だというイギリス人の40歳近いOLふたり、そしてマルコムと同じような年齢のカナダ人男性自称DJ。
ラーセンというモロッコ人のガイドひとりが5人のチームを案内してくれた。

カナダ人のチャーリーは、50代後半で独身。
親が資産家で、働かなくても食べていかれるということだった。
趣味人で、DJと言うだけあって、50年代60年代のポップスに詳しく、音楽評論家のようだった。
マルコムとは出会った瞬間から「相容れない」タイプだった。
マルコムは「いい年をして、母親の金で食っている」大きな赤ん坊のようなチャーリーは「ダメなやつ」だし、チャーリーにとって官僚的なマルコムは「堅物で退屈」なイギリス人。
友情が芽生える余地はなかった。

未知のアフリカを堪能

とはいえ、私たちはたった5人のパーティーだったので、ツアーの5〜6日の間、とにかく否応もなく喋りながら歩いた。
カナダ人のアクセントに慣れていなかった私も、毎日毎日喋ってたので、チャーリーの英語は100%わかるようになったくらいだ。
今考えると、OLのふたり組も含めて、全員が独身だったことになる。

カサブランカからアトラス山脈の山あいの村をいくつも越えて、私たちはモロッコのベルベル人の村で歓迎されたり、モスクが立派な村を見物したり、あるいは全く文明とは隔絶された山あいの電気もないような村を通り過ぎたりしながら、毎日何時間も歩いてきたアフリカの国を楽しんだ。
モロッコにはサウナのような風呂がある。
ハマムと呼ばれる風呂に入ったりしたのもいい経験だった。

水と油が交わった瞬間

何日一緒に旅行しても全く仲良く慣れなかったチャーリーとマルコムだったが、一度だけ心が完全にひとつになった瞬間があった。
それは、田舎道を歩いているとき、シャクトリムシの大群が道を横切りながら引越しをしていたのを、思わず足で彼らの列を踏みそうになったときだった。

「なんと!」
「あぶないじゃないか!」
「Emma、虫がかわいそうじゃないか!」

マルコムとチャーリーに口々に責め立てられて、私はすっかりショックを受けてしまった。
「ちょっとうっかりしただけじゃない…」
そこまで言われる筋合いはない。
法律を犯したわけではないんだし。

しかし、ふたりの目は厳しかった。
まるで車で歩行者をはねてしまったドライバーを見るような目で見られ、その日はあとあとまで罵られることになった。
シャクトリムシの災難の前に一致団結したマルコムとチャーリーだったが、それ以降はもう、心をひとつにする出来事はなく、またそれぞれの個性の中に共通点を見出すことはなかった。

チームのその後

弟が日本人女性と結婚したから、日本の寿司が大好物だというチャーリーに、私は後で「シソの種」を送った。
でも、その封筒は当局に没収されてしまったようだった。
シソの種はまるで大麻の種みたいに見えたのかもしれない。

それきり、チャーリーとの交信は途絶えた。
OLたちとも空港で別れたきり。
ラーセンとは、その数年後にアトラス山脈のガイドを頼むことになるのだが。

つづく

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